第3章 猫目が笑う《乱歩》
「良い天気だね」
『そ、そうですね』
すたすたと歩きながら、乱歩さんはまた瞳を猫のようにして笑っていた。
不思議な人だ。
外に出るのが本当に嬉しいらしい、子どもよろしくはしゃぎ回るその姿に私はため息をついた。
駄菓子を買いにいくらしいけど、今時わざわざ足で買いに行かずとも、通販だって沢山あるのに。
今日はまだ暑い。
晴れ渡った青空が嫌みのように見えて、本日二度目のため息をつこうとしたときだ。
「あれは!」
『い、いきなり何ですか!』
跳び跳ねる勢いで驚いた乱歩さんが、あれ、あれ、と前方を指差す。
いや、あれって。
『ビニール袋です、乱歩さん』
「知ってるよ!でもほら、風に揺れて猫に見えるじゃないか!」
猫っていうか、あの動き方は犬じゃ…。
呆れながらそう返そうとすると、ふわり、待ったビニール袋は車道の上を遊ぶように舞い始めた。
其れはさながら鼠を追う猫のようにして。
「ほら、矢っ張り猫じゃないか」
この人、私の心が読めるの?
顔を背けて歩きながら、私は一人、呟いた。
『…犬だし』