第2章 ヨコハマデート日和《太宰》
こじんまりとしたカフェの中、私は店長イチオシだというナポリタンに舌鼓を打っていた。
「おーいーしーい!」
さっきまであんなにグロい映画を見ていたのに、食べることには支障がないのは自分でも不思議。
『本当に美味しそうに食べるねえ』
既に平らげたケーキの皿を名残惜しく見つめたあと、太宰さんは実に優しく笑いかけてきた。
「美味しいんですもん!この味は誰にも真似できませんね…!良かったら一口食べま」『頂きますっ、と』
ほぼほぼ私の言葉を遮って、前方から伸びてきた銀のフォークは器用にくるくると、ケチャップが絡んだ糸を巻きつけていく。
「うん、うん。此れは美味しい」
『よく来るんじゃ無いんですか?』
「だって、オススメを素直に頼んだらつまらなくない?ほら見た?君がナポリタンを頼んだ瞬間のあの店長の顔、こんなになって…」
『もう、太宰さんのひねくれ者!』
なんて言いながらも、私は笑いが込み上げてしまった。
その店長の顔とやらは見てないけど、太宰さんの顔真似はきっとよく似ていたことがすぐに分かったから。
「そんな笑いながら言われてもね、私まで笑えてくるから止めてくれないかい?」
『む、りです』
ふふっ、また唇の隙間から漏れた笑い声に、今度こそ太宰さんも吹き出す。
其れを恥じるように慌てて言い訳をされた。
「君の笑いの沸点が低すぎるせいだ!」
『違います!太宰さんの言うことが面白いんです!』
厳かな雰囲気が売りのはずのカフェに、間抜けな笑い声がふたつ、高らかに響いていた。