第5章 新しい生活
弱った思考で目をパチパチしながら何度も考えてみる。
が、
一瞬の出来事で兵長の行動が脳に追い付いてこない。
「………。」
鮮明に感触が残っているからか次第に意識がハッキリとしてきた私は、おでこを抑えながらバッと布団を剥ぎ取り、ベッドから起き上がった。
「…ええぇ?!」
抑えているおでこは熱以外の物も含まれている事が分かってしまう程熱い。
「どっ、どうしたんですかいきなり?!」
「これでお前の今までの失態を許してやる。感謝しろ。」
ベッドの上で足を大きく組み、ジッと私の目を一点に見つめてくる兵長に鼓動が早くなるのを感じる。
心無しか意地悪そうに兵長の口角が上がっている様にも見えるが、兵長の表情表現が全く読み取れない私にはあまり変わらない様にも見える。
「へ、兵長…、昨日から私の事、弄んでますよね…?」
絶対そうだ。
こんな魅力的な大人の男性に、十五の私が子供に見え無い訳が無い。
昨日言っていたガキに手を出す程困ってない、と言うのも事実だろう。
「お前が男を知らねぇから教えてやってるだけだ。」
「……?男は知ってますけど…?」
「…あ?そう言う事じゃねぇよ。」
「……!!!そ、そっちでしたか!いや…はい…。知りません……。けど、教えなくていいですからっ!!」
盛大に舌打ちが響いた所で、誰かの走って来る足音が近付いてきた。
「なな!!」
「エレン?!」
汗をかきながら肩で息をしているエレンは凄い形相だ。
「なっ、どうしたんだよその顔?!」
「えっ?な、何でも無い!」
男を教える、初めは分からなかったが、その言葉はこの歳の私でも何となく意味が分かる。
まだまだ未知の世界だが、人類最強の男にそんな言葉を聞かされて戸惑わない訳が無い。
動揺している私の隣で兵長が口を開いた。
「地下室の掃除は終わったんだろうな。一つでも塵が残っていたら容赦しねぇぞ。」
「それより兵長!一体ななに何したんですか!」
恐らく私の真っ赤になった顔を見ておかしいと思ったのだろう。
ましてや兵長が私と同じベッドに座っているのだ。
おでこにキスされました、なんて言える訳が無い。