第5章 新しい生活
持っていたホウキに体を預けながらエレンを覗き込む。
「お前は…知らなくていい……。」
目を逸らし眉をひそめているエレンの顔は再び火照っている様だ。
熱でも出したかの様な弱々しいエレンに可愛さまで覚える。
「つーか…そんなに近付くなよな。早く掃除するぞ。」
スっと視線を逸らされ肩を持ち退かされる。
近付くなと言われると避けられているようで、悲しくなった私はエレンをからかった。
「最近エレン変だよ?…まさか…反抗期?!」
「はぁ…?んな訳ねぇだろ…。」
そんな怠そうに返事しなくても…。
「はいはい、じゃあもう近付きませんよーっと。」
冗談を言いながら後ろを向き
掃除を再開しようとした、その時。
「おいっ…。」
後ろに居たエレンに両手首を抑えられてしまった。
「え?!」
突然の状況に把握出来ず
恐る恐る少し上を向いてみると、真剣な表情のエレンの顔が私の真正面にある。
ホウキが床に落ちる音が地下室全体に響き渡った。
「そう言う事じゃねえっ…!やっぱり何も分かってねえんだな…。」
初めて見る鋭い眼光に吸い込まれそうになった私は、エレンから少しでも離れようと顔を背ける。
「な、何なのエレン?怖い顔してるよ?」
両手で抑えていた私の両手首を、エレンは呆気なく片手で抑え直した。
逃げようと振り解いてみるが、全く微動だにしないまま私を諦めさせてしまう。
空いた手で私の顎を優しく抑え、背けていた私の顔はまたエレンの目の前に戻されてしまった。