第3章 調査兵入団前夜の事件
肘を紙で抑えながらクローゼットに手を伸ばし
適当にシャツとスカートを取って血が付かないように着替える。
「お待たせしましたっ!」
勢い良く部屋を出た私は、目を瞑った兵長を見付けるとすぐに声を掛けた。
「…行くぞ。」
「…はい。あの…何処へ行くんですか?」
訳が分からないまま兵長に付いて行く。
兵長の背中を見つめるが、何も返事は返ってこない。
しばらく歩き、足を止めた場所は
本日2度目の医務室だった。
部屋に入った瞬間、薬品の匂いが鼻にツンと入ってくる。
風で白いカーテンが揺れ、前に居た兵長の黒髪をサラサラと揺らす。
恐ろしく綺麗な場面に身震いを覚え、全身が熱くなった私は無意識に目を細めていた。
「座れ。」
丸椅子にドカッと座った兵長が、目の前の椅子を顎で指しながら私をジッと見つめている。
緊張した私は、大人しく指された椅子に座り俯いた。
肩に力が入る。
医務室に足を止めた際、何となく予想が付いてしまった私は少しの沈黙を破り、口を開いた。
「あの…手当なら自分で出来ますよ…?」
い、言い方間違えた!!
何て可愛げの無い女なんだろう…。
申し訳ない気持ちを思い通りに伝えれない自分に苛立ちを覚える。
「あ゛?」
バッと前を向くと、明らかに機嫌の悪い兵長が消毒液の蓋を開けながら、私に睨みを利かせている。
これこそ、蛇に睨まれた蛙だ。
「すっ、すいません!助けて頂いた上に、こんな面倒な事までして貰ってっ…。」
「分かってるじゃねぇか。」
ぶっきらぼうに返事をしながら、私の傷口に消毒液を掛け始める。
「っ痛…!!」
「……その痛がり方は破片が入ってるかもしれねぇな。」
舌打ちをしながら、救急箱からピンセットを取り出す兵長にギョッとしてしまう。
もしかして、兵長が取るの?!
「ちょ、ちょっと待って下さい!先生待ちましょう?!」
こんなに面倒くさそうに手当している人に任せてしまって大丈夫な訳が無いと、焦って兵長の腕を止めようと握る。
「医師は兵士達の部屋を回って手が離せねぇ。
それともお前は俺がこんな傷の一つや二つ手当出来ねぇとでも言いてぇのか?」