第3章 調査兵入団前夜の事件
持ち上げられた瞬間私の顔と
怖いくらいに整った兵長の顔が近付く。
初めてこんなに近くで見た。
いや、正確に言うと二回目だ。
その時は意識が朦朧としていた為、ハッキリとした記憶は無い。
小柄な体なのに私を持ち上げても微動だにしない腕。
細く締まった体。
密かに放つ色香。
綺麗で艶々している黒髪。
相手を射抜くような鋭い眼光は、吸い込まれるように魅入ってしまう。
先程あんな事が起きたと言うのに、そんな事をも忘れさせてしまうような存在感に圧倒される。
ジャケットを片手で軽く抑えつつ、もう一つの腕を恐る恐る兵長の背中に回す。
腕や背中、私の足を持ち上げている掌
そこから伝わってくる体温の全てが心地良くて。
誰に見られてもどうでも良くなりそうで。
兵長のシャツをキュッと軽く握った。
「…お前、怪我してんじゃねぇか…。」
「へっ?!」
急いで握っていた服をパッと離す。
声が裏返ってしまった…。
上を見上げると、兵長が私の肘の方に視線を向けていた。
「はっ、ほ、ホントだ!すいませんっ!」
見てみると兵長の袖に血が付いている。
自分の痛々しい肘より先に、目が行ってしまう。
最悪だ…よりによって自分の班長になるリヴァイ兵士長にこんな情けない姿を見せた上に、服を汚してしまうなんて。自分の顔面を殴りたい。
「仕方ねぇ…着替えが終わったら出て来い。」
そう言われゆっくりと降ろされて見てみると、そこは私の部屋の前だった。
「?わ、分かりました…あの、本当にありがとうございましたっ!」
ジャケットを両手で抑えながら深々と頭を下げる。
「チッ…。いいから早くしろ。」
出て来い?そこで待ってるって言う事?
とにかく早く着替えないと!
前をジャケットで隠しながら恐る恐る振り向かずにドアノブに手をかける。後ろを向いてしまうと下着を付けていると言ってもお尻が丸見えになってしまう。
それに気付いた兵長は舌打ちをしながら私が見えない位置に移動し、壁を背に腕を組んでもたれ掛かる。
それを見てホッとした私は申し訳無く感じながらすぐに服を替えに部屋に入った。