第2章 死に損ないの希望
あの時の光景が脳裏にフラッシュバックする。
目の届かない場所に居てでも、決して死なないように、と思って厳しく接してきた。だのにいざ目の届く範疇、私の目の前で、エースが死んだ。私は一体何の為に海軍に入ったのか、ここまで地位もあげて、何してたのか。考えないようにしていたことが現実が押し寄せてくる。
クザン大将は私の辞表を受け取ってくれなかった。エースが死んじゃった今、海軍に居ても意味ないって言ったのに。
じいちゃんは私に何も言わない。あの時、海軍に入るって決めたあの時「エースを守れ」って言われたのに。
サカズキ大将に言われた。「存在が罪」、そんなこと知ってる。子供の時から知ってる。直接言われたことは無かったけれど、私のせい…私とエースのせいで罪もなく死んで言った人たちを知ってる。でも、それでも母の死を無駄にしたくなかった。愛するエースを守りたかった。でも、その愛しのエースは死んでしまった…死なせてしまった。
「何で私はまだ生きてるの……!!」
口にすることのできなかった思いがこぼれるように、心から押し出すように溢れてくる。醜い、本当に醜い。火傷で爛れた顔も、腕をなくした身体も、私の心も、私の血筋も、全部全部、ゴール・D・という存在が醜い!
「俺たちがいる」
静かな声だった。真っ暗な私の世界に灯った小さな小さな灯火のような。迷子の私を、決して離さないというような、意志の篭った声でもあった。
ぎゅっとシーツごと握っていた拳に暖かい掌が重なる。
「言ってくれただろ?エースの兄弟なら私の弟だって。ルフィはまだ生きてる、俺も生きてる。今度は俺たちのために…だから何で生きてるんだ、なんて言わないでくれよ姉ちゃん」
「サボと、ルフィ、?」
「俺は、あんたが生きててくれて嬉しい。醜いなんて言わないでくれ。俺にとってはどんな時でも、どんな姿をしていたって、綺麗で強くてかっこよかった」
下がっていた目線をサボへと向ける。10年も前の記憶の中のサボと今のサボ。大きくなったなぁ…背も手もちっちゃくて、腕も足も首も細かったのに。今じゃすっかり私を追い越したんだ。左目を覆うような火傷跡は痛々しい。
エースは本当にいい兄弟を得た。私にはこんなに立派になった弟がいたんだ。…もちろん、エースのためにインペルダウンまで行って、マリンフォードに駆けつけたルフィも。
