第6章 部下の欽仰と返忠
ふん、と鼻を鳴らしたはエルマーに背を向け軍艦を停泊した港へと向かった。
瓦礫に埋もれたままのエルマーは俯き、唇を噛み締める。そんなエルマーを引っ張り起こそうと伸びる掌がふたつ。アダンもクリミアだ。いつもならば突っぱねるその掌も、今回ばかりは戸惑いながらも伸ばす他なかった。
*
「エース…!ごめんなさい!!ごめんなさいっ…!!」
許せなかった。彼女が、忌々しい海賊と血の繋がった姉であることが。更にあの鬼の子だなんて。誰よりも正しい海兵であった彼女が、誰よりも忌々しい海賊が似合う男と、血の繋がりがあるなんて。
火拳を思って泣く彼女は痛々しいほどまでに哀れだった。あの青剣のが、我々の中将が、弱々しく、死んだ人間に縋るように泣く上司が、哀れでたまらなかった。
違う、彼女は、こんなのは彼女じゃない。我々の上司が、こんな、これじゃあまるで、ただの人間みたいじゃないか。火拳と同じ鬼の子のくせに、何を泣いているのか。死を嘆いているのか。
誰よりも海兵らしかった彼女が、こんな残虐な世界を作り出した男の娘だなんて。
目の前が真っ暗になった気がした。
「…ゴール・D・、それがあの人の本名です」
気がついたらサカズキ大将に全てを話していた。伝えるべき人間は、この人しかいないと思った。彼女の血筋が、絶対的に許せなかった。
その後、サカズキ大将は中将の部隊との遠征任務を取り付け、我々は海に出た。作戦決行は今日、流れてくる暗雲。絶好の暗殺日和だと、無意識に口角が上がっていた。
なぁ、どうしてそんな顔するんだよ。同期のよしみだろ?
「アダン!!!お前ええええ!!!!!」
怒り狂ったエルマーの一太刀が俺を襲う。いい剣筋だなぁ、エルマー。流石中将から直伝なだけある。お前はすっかり中将の犬になっちまって、見事だったよ。滑り落ちるのは一瞬なんだな。ん?何故裏切ったか、だって?ははは、裏切ったのは中将だろ。あんなに美しく、気高い海兵がまさか海賊王の娘だなんて。許せると思うか?許せるわけねぇだろ。裏切りだ、あの人は裏切ったんだ。
嗚呼、雨が降ってきた、甲板が濡れ……、あか?クリミアの剣かこれ、はは、お前も中将直伝だったな。
お前ら2人とも、裏切りも
「あばよ、アダン」