第6章 部下の欽仰と返忠
『青剣の』、がそう呼ばれて暫く、エルマーは彼女の部下として配属された。
エルマーという男は直情型で短期、煽り耐性がなく、悪く言えば単細胞。故郷は海賊に荒らされ、両親も友人も殺された。海賊に対する嫌悪も私怨も当然なものであった。彼が海軍に志望した理由は言わずもがな、海賊を根絶やしにすることである。
それに対しての掲げる正義は「仁こそ正義」。任務において、彼女の優先事項は常に人命救助が最初にある。海賊の討伐など二の次だ。
そんな過激派とも言えるエルマーはの隊では浮いていた。
「どうした、エルマー。そんな不機嫌そうな顔して。腹でも壊したか?」
「黙れアダン。俺はこんな落ちぶれた隊で埋もれる男じゃない」
「産まれる?」
「埋もれるだ!耳クソ詰まってんのかっ!」
浮いているエルマーに話しかける男、アダン。彼はエルマーと同期の間柄である。エルマーと馴れ合おうとする数少ない海兵であった。
「ちょっと、ここをどこだと思ってるの?食堂よ。鼻クソだか耳クソだか知らないけど大声でそんなクソクソ言うのやめてくれる?」
「お前が一番クソクソ言ってんだろ」
エルマー同様に口の悪い女の名前はクリミア。彼女もまた、エルマーと同期の人間である。
3人は同期であったが、の部隊に配属されたのはアダンとクリミアが先で、エルマーは2人から一年程遅れて配属された。
「俺は海賊共を根絶やしにするために海軍に入ったんだ。こんなところで足踏みなんてしてられねぇ」
エルマーはそう吐き捨てると食器を片すために席を立った。
エルマーが立ち去った後、アダンとクリミアは顔を見合わせる。
「あいつ相変わらずね。普通にあの人の部下としてムカつくんだけど。1回くらいぶっ殺してもいいかしら」
「よくないだろ、殺すなよ。…まぁお前のいうこともわかるが、きっとエルマーもあの人の素晴らしさに気づくだろ」
クリミアとアダンはを大層慕っていた。もちろん他の隊員も。クリミアは純粋な尊敬だが、稀にアダンのように信仰くさい部下もいる。それほどまでにという海兵は眩しい存在だった。