第4章 上司の回顧と再会
「エースを守りたかった…。悪人の子供は悪人だなんて、誰が決めつけたんですか」
「火拳はまた勝手が違ってくる」
「違いません。エースも同じ人間、母親から愛を受けて生まれてきたんです」
「だが危険因子であることは間違いじゃない。現にあいつは海賊だ。違うか?」
「…だからって、鬼の子なんて罵って…私たちがどんな思いで生きてきたか…!」
初めて感情的になったの姿に驚く。いつも淡々としていた姿とは180度違う。海賊や部下に怒鳴る姿は僅かだが見たことがあった。だが俺は肩を震わせ、拳を強く握りしめ、涙を瞳に溜めて、声を荒げる姿を俺は見たことがなかった。
「まだ親元にいる年齢なのに、独りぼっちで…会ったこともない知らない父親の所為で生まれてきたことを否定される。自分の血筋の所為で殺される無関係で無実な人々。こんな理不尽な世界が許せなかった!」
海賊王の子供が生まれるかもしれない、そう言って南の海(サウスブルー)で罪のない妊婦が数多く殺された、とは聞いた話だった。
知ってるよ、この世が理不尽なことは。俺もそれに嘆いていた記憶がある。だが、当事者ではない俺にはの怒りも悲しみも計り知れないものだった。
一度声を荒げたは荒かった息遣いが徐々に落ち着いてきた。震える声で呟く。
「…すみません、わかってるんです仕方のないことだって」
それっきりは黙り込んでしまった。
表情は相変わらず伺えない。
俺は長いため息を吐き出すとを語りかける。
「お前の事情はわかった。お前が弟想いなのも十分わかった。だが、話は別だ。まだ戦争も終わって間もない、少し頭を冷やせ」
それがとの最後の会話だった。は海賊王の血を継いでる。ガープさんもきっとそれを知っている。程の実力でしかも地位は中将。の血筋が世間に流れれば海軍の面目はまた丸潰れだ。もしの血筋を知った人間がいて、それが海軍全体に広まれば内々に処分される。どちらも避けたい。