第1章 選抜試験
「ここが選抜を行う、稽古場でございます」
しずしずと歩く女中に案内されやっと辿り着くと、そこにはすでに大半の男たちが集まっていた。すっと静まり返り、全員がこちらを向く。大勢から敵意に近い感情が向けられ、雄司は一瞬凍りついた。
が、またすぐに音が戻ってくる。
(何だったんだ、今のは...)
とりあえず、と壁に一人寄り掛かり待っていると、柄の悪そうな男が一人寄ってきた。
「何だテメェ、ガンくれてんじゃねぇよ」
典型的すぎて笑えそうだ。ぐっと表情筋を抑えて冷静を装って応える。
「そのような覚えはありませんが、何かご用でしょうか」
丁寧な態度が、逆に相手の怒りを買ったらしい。襟元を掴まれ叫ばれる。
「ナメとんのかワレ!シバくぞチビが!」
ツバを飛ばすかという程の勢いだ。もうそこまでいくのか。沸点が低すぎる。雄司はわざと口角を上げた。
「俺で良ければお相手いたしましょうか?」
「は? ……………」
すると、男は面食らった顔をしてあっさりと手を離し、ため息をつく。
「………へー。ふーん」
「…? え?」
男はお手上げというように手のひらを見せ、へらへらと笑った。
「こりゃ面倒なおチビちゃんだねぇ」
あまりの雰囲気の変わりように、雄司は何だか毒気を抜かれたような気がした。
「あの? どういう、ことですか」
「あはは、ごめんねぇ、ただのお金目当てのひ弱な奴だったらここで落としてあげないと流石に可哀想だからさ!」
そしてひらひらと手を振り、じゃあねぇ、と男はのらりくらりと去っていった。雄司はまったくわけがわからない。
「なんだ?あれ…」
そして男の姿が見えなくなったその時、何かの始まりを告げる法螺が鳴り響いた。