第2章 初陣の日
極寒の山頂だというのに、背中に冷や汗がたれている。
それは敵と相対した恐怖というよりも、政宗や小十郎、その他数々の眼が自分たち二人だけを見つめているという緊張からくるものだ。
「成敗したいんだろ? 来いよ」
「おらが小っせえからって舐めるでねえっ!!」
「舐めてねえっての」
ふたりは距離を詰めることができずに円を描き続けている。
ずり、ずり、と大槌が雪に深く跡を残している。
(いっぺんでも喰らったら、死にそうだ)
雑兵ごときの鎧は貧弱だ。どうにか時間稼ぎをして相手の力量を測った方がいい。相手に言われるまでもなく、舐めている余裕はないのだ。
「俺の事は嫌いか?」
「おさむらいなんて嫌いだべ」
「侍じゃねえよ。俺の事」
「お前さんなんか知らねえべ!」
「ふうん、そう」
雄司は考える。どうにか、彼女を殴らずに済む倒し方を。
段々と円が小さくなっていく。
そうして、あと数歩ぶんかという時になって、やっと二人は動いた。
「えンやぁ!」
少女が大槌をブン回す。雄司は小さく、ひっ、と言ってそれを避けた。
「どだ、怖いべ?」
少女は得意げに言った。
「そりゃあ怖いさ、こんなモン振り回されちゃかなわねぇ」
少女は見かけからは考えられない腕力で殴りにかかってくる。雄司はそれを必死に避けながら、考える。
(どうする…?)
「止めてやるなよ」
「ですが…」
「あんな無鉄砲な奴は放っておけ。倒せれば実力があるってことだ、それなりに昇進させる。負けても別にその後で俺が行けばいい話だろ」
「それはそうですが」
小十郎は煮え切らない。政宗のこういった型破りな行動があまり気に入らないのだ。
「別に悪い事じゃないんだし、いーんじゃない?」
隣で肩をすくめる成実を、小十郎はさっと睨んだ。
「まあまあ景綱、抑えて抑えて。どうやら、何か考え付いたようですし」
「は…?」
「逃げてねえでなんかやってきたらどうだべ!」
何度大槌を振りきっても、少女は疲れを見せる気配がない。恐ろしいものだ。
「そんなに早く終わらせてえのか?」
「は?」
「なら、終わらせよう」
雄司は突然踵を返し、自軍の方向へと走り出した。
「なっ…!?」