第2章 初陣の日
丘の上にはまだ残雪が多かった。まだ慣れない馬での悪路は歩けそうにないため徒歩にかえる。雨で濡れたせいで重く、ましてや甲冑に張り付いてきて非常に厄介だ。
頂上あたりに、幾人かの人影が見える。成実が手をかざし、目を細めた。
「綱元、大将ってのはどれなん?」
「さあ、さしずめ一番体格のいい奴でしょうかね」
しかし、近付いて行っても一際体格のいいと言える者はいないようだった。それどころか、子供らしき人影すらいる。
「戦力がなくなって、終に子供に頼りましたか…」
「………」
『ぅりぁああ――――ッ!!!』
「!?」
無闇に近づきすぎたのかもしれない、もしくは、所詮農民だと侮りすぎたか。
気付いた時にはもう遅かった。
雪の中から飛び出した伏兵が、雄司に斬りかかって来ていた。
峰打ちに切り替える余裕は無い。
農民は殺したくない。
しかし…斬らなければ、斬られる。やむをえない。
(御免…!)
雄司は即座に刀を抜き、斬った。
ゴス!
(…?)
斬った感覚が無い。殴ったような音がした。農民が呻いて吹っ飛ぶ。しかし、血が舞う事は無かった。
成実と綱元は驚いた顔をしている。何故だろう?
なぜ斬れないのか、雄司は刀をよく見た。何かがおかしい気がする。恐る恐る、刃の部分を指でなぞってみた。斬れない。爪で強く引っ掻いてみると、光っていた銀が剥がれ、下から元の素材―――木が出てきた。
「おまっ… それ、修練用の木刀!?」
「そんなものじゃ戦えませんよ!?」
「ええっ!? でも俺、これを渡されたんすよ!」
木なんかじゃ本物の刀に敵うはずがない!
背筋が冷え、冷や汗が垂れる。
その時、後方からざくざくと足音が聞こえてきた。
「わざとに決まってんだろ、新入り」