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青一点【BSR】

第2章 初陣の日


 豊臣の兵は味方が掃討してくれていたらしい。特に襲われる事も無く、順調に進む事が出来た。血は雨で洗い流され、地に染みた。
 道中、女や子供が身を寄せ合い震えているのをちらほら見かけた。
「…一揆を起こして起きながら、いざとなったら縋るとは。何様のつもりなんでしょうね」
 見た目だけは柔らかく、中身は恐ろしい笑みをくくと洩らしている彼は鬼庭綱元だ。その温厚そうな容姿とは裏腹に、内に激しい何かを秘めていそうな男である。先程成実の背中を守っていたのも彼だ。
「まーま、そう怒んなって。まさか豊臣がこんな速いとは思わなかったしね」
 成実や片倉と同じ位にいるらしく、と同時に、幼い頃からの兄弟のようなものらしい。
「にしても、こんな惨状にしたんですからもう少し骨があるかと思っていたんですけどね」
「骨ねぇ。雑兵なんてあんなもんっしょ」
「戦いが好きな訳ではありませんが、あまりに弱すぎるのも嫌いですよ、僕は」
「まー昔っからそーだよねぇ、アンタは」
「楽な戦ほど退屈なものはありませんよ。味方も殺さず、且つ全力を出せる、そんな戦いがしたいものです」
「また無茶なことを… でも、そういうトコ嫌いじゃないぜ」
「くく、嫌い以前の話でしょうが」
 真剣なのかまったりしているのか、よくわからない会話を繰り広げている。…雄司の頭上で。
 初めての戦で死ぬのは可哀想だと、二人で守るように雄司を挟んでいるのだ。馬に乗っているとはいえ、出雲は背が低い。雄司の体格的な物も相まって、頭一つ分以上の差ができてしまった。
「で、雄司…でしたか、どうですか、この死臭は」
「えっ」
「正直にどうぞ。吐いたでしょう」
「…ええ、思い切り」
「当り前ですよ、ここは特に酷いですから」
「…はい、慣れます」
 しばしの沈黙が降りた。頭上二人で何やら見合わせ、成実が口を開いた。
「…慣れる必要は無いんじゃない? 俺だって吐きそうだし。死体に慣れちゃうのはやめた方がいいよ」
「シゲの言う通り、流石にこれに慣れようとするのは非人道的といいますか…」
「お二人でも吐くんですか」
「そりゃね。自分がこうなったらとかも思うし」
「人を殺す分、生への執着もありますから」
 綱元が上を見上げた。小高い丘が見える。
「さて、あの山の上に、一揆の大将がお待ちかねのようですよ」
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