第2章 初陣の日
森が途切れ、開けた場所に出た。崖の上だ。下が良く見える―――――燃えている、農村が。
先頭の成実が馬を振り向かせた。
「お前ら! この村、絶対に殺すなよ!」
『応!!!!!』
彼の馬が大きく嘶き、崖から跳んだ。全員がそれに続き、崖を駆け降りる。馬の扱いに慣れている伊達軍にとっては、45度を超える傾斜もお手の物らしい。雄司含め新入りの数名は、少し躊躇った後に少し遅れて跳び出した。
そこかしこに農民が倒れている。女も子供も見境なく斬られ、潰され、燃やされ…
辺りは地面も壁も血に塗れ、酷い状態だ。数人、吐く者も出てきた。雄司も耐えきれず、物陰で思い切り吐いた。
(惨い…)
成実は既に死体を辿って遥か先に進んでいる。雄司ももたもたしている場合ではないのだ。再び出雲に跨り走り出す。
死臭に耐えながら少し走ると、何かの掛け声が聞こえてきた。恐らく豊臣とぶち当たり、交戦しているのだろう。
自分も参戦しなければならない。心の底から、ずぐりと恐れが込み上げてくる。
しかし、見えてきたと思うと、意外と人の数は少なかった。恐らく、一人は成実。その背中に位置している、誰かはわからないが伊達軍であろう蒼い一人。それを囲む、恐らく豊臣であろう七人程度しかいない様だ。
まだ騎馬戦はできない。出雲を茂みに隠し、走った。
血染めの二人が立っていた。
「あっ!雄司じゃん!」
足元の死体も見ず、成実が駆け寄ってきた。血の臭いがする。対してもう一人は動かない。刀から血を払い、鞘へと入れた。
「もしかして加勢?」
「ええ… 一応は」
彼らの陣羽織。鮮やかな蒼に赤黒い点が散っている。
「そっか。んー、終わっちゃったし先進もうか」
「あの…、馬は?」
腕に、顔に、そこかしこに、赤い花が咲いている。
「意外とすぐ近くにいるよ。雄司も連れてきなよ、待ってるからさ」
「…はい」
この前話した時と、全く変わらない、彼がいる。
「この先に、残りの農民いるっぽいよ」
「わかりました」
突然雨が降ってきた。
「ありゃ、運無いなぁ」
震えた。寒かった。
肌の赤はきれいに消えても、蒼に染みついた黒は滲んでその不気味さを増すのだった。