第1章 選抜試験
(まぁ、見て解らない事は考えてもわかんないな、多分)
雄司は開き直り、もう『婆沙羅』について考えるのをあきらめた。そして思った。
まだ昼過ぎだ。二人の用は早々に終わってしまった。暇である。
…前述の通り、雄司は稽古道具を持っていない。
……午前中は何をした?
雄司は仕方なく腹筋を始めた。
数刻後、(筋肉痛で)倒れている雄司が夕餉を運びに来た女中により発見される。ちょっとした騒ぎになり、雄司は真っ赤になりながら訳を話した。
半笑いの女中に手伝ってもらいながら震える手でなんとか食事を終え、意地で着替えを一人で行い、その日を終えた。
翌朝、枕元には一通の書状。
二枚重ねて折ってあり、一枚目には達筆な字で「貴殿の合格を祝する congraturation! 奥州筆頭 伊達政宗」と書いてあった。…一部読めない。何だ、この奇怪な字は…
気を取り直して二枚目を見ると、明らかに政宗以外の者が書いたであろう字でつらつらと初期費用による給料減額や日々の日程などが書かれている。
雄司にとって一番大切なところはこれだ。
”準備を考慮し、三日間の一時帰宅を許可する”
家族に合格の旨を伝え、しばしの別れを告げなければならない。一番初めにやることができた。
無事合格通知を受け取り、雄司も今日から伊達軍の一員である。もしかしたら、若くして死ぬ羽目になるかもしれない。しかし、それを案じて最後まで反対した家族を振り切ってまで来たのだ、今更後悔は無いし覚悟もできている。
あの奔放な主君の下で、自分はどこまで生きられるのだろうか?弱き一兵として、一瞬にして戦場で散るのか?
しかし、雄司は何故か笑みを零した。
死ぬかもしれないというのに、なんとなく、この軍にいれば死ぬものも死なない気がしてきた。不謹慎だが、なんとなく楽しみになってくる。武者震いもする。雄司は勢いよく襖を開けた。