第1章 選抜試験
さて言われた通り一旦部屋に戻ってきたが、雄司には特にすることもない。稽古の道具も持っていない。腹の減り具合からすると、昼までまだ結構な時間がありそうだ。どう考えても、試験が早く終わりすぎたせいである。
猛烈に暇だ。これなら成実がいた方がずっと退屈しなかっただろう。国の重鎮を話し相手に引き留めることはしないが。
「……………」
暇だ、暇すぎる。
雄司はおもむろに腕立て伏せを始めた。
「雄司様、昼餉をお持ちしました」
襖の外に人影があった。
「は、は、はっ、置いて、おい、くだ、さい」
「雄司様?」
「いえ、お気に、なさら、ず」
「はぁ…?」
明らかに怪しまれただろうが、女中は去ったようだ。
「は、はっ、は、はぁ、はぁ… っふ」
少し調子に乗って延々と腹筋やら背筋やら鍛えていると、すっかり疲れてしまった。汗がぼたぼたと大きな雫になって落ちている。畳に水分はまずいので慌てて荷物から手拭いを出して拭き取った。
それはともかくとして、いい暇潰しにはなったらしい。襖を開けると、吹きこむ風が火照った体に心地いい。雄司は思わず伸びをする。腹もほどよく減っていた。ああ、肉が食べたいな。昼餉は何かと下を見れば、
「……………」
熱々の野菜たっぷり鍋料理。
「…ここは、寺だったかな?」