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青一点【BSR】

第1章 選抜試験


 その後は成実もこちらの心中を悟ってか、しばらくおとなしくしていた。やっと動揺が収まった頃に、それを悟った彼が再び口を開く。
「ねね雄司」
「はい?」
 遠慮なく呼び捨てにしてくるが、全く威圧感は感じない。親しみは持てるが、上司としてそれはどうなのだろう。
「梵に一番最初に指名されたんしょ?」
「は?」
 また『梵』か。梵とは何のことだろう。飼ってる犬か何かの名前だろうか。
「だから、一番最初に戦ったんでしょ? 梵と」
「あの、梵とは誰でしょう?」
「え? ………ああそっか! 確かに分かんないわ! あははは!」
「…えっと、まさか?」
 最初に戦った、とは、まさか。間違いであればいいのだが。
「ごめんごめん、梵はガキの頃のだったわ! うちの筆頭の事、政宗様」
 そういえばこの人も『伊達』なのか。きっと小さいころから慣れ親しんでいて、軍にも浸透してしまっているから気付かなかったのだろう。
(あの当主が、ボンなんて呼ばれてるとか…)
 雄司は口元が緩みそうになるのをこらえた。
「で、どだった? やりあってみて」
「うーん… 強かったとしか…」
 実はほとんど憶えていない。余裕が無かったのであまり戦い方の癖や動きは観察できず、自分の事だけで精一杯だったのだ。ただ、速くて強くて圧倒的だった。
 その他と言うと…
「特にありません」
「マジかよ! …まぁ、そうだよなぁ。やりあってる時ってあんまりモノ考えないもんな」

 そうこうしているうちに、何だか憶えがあるような風景になってきた。部屋に近付いているのだろう。きっとここはもう既に兵舎の中だ。
 どれくらい歩いただろう。かなり話していた気がする。いったい自分はどこまでマヌケに迷っていたのだ。
「あの、もう自分で行けます」
「あ、そぉ? ほんとにだいじょぶ?」
「うっ… はい」
 心配されるのが悔しい。
「ん! わかった。んじゃぁ、雄司の合格楽しみにしてるよん」
 成実はやはりあっさりとしていた。振り返り、手を振る仕草は大きく無垢な犬のようにも見えた。
「ありがとうございました」
「礼には及ばないぜ、なんつて」
 しかしどこまでも軽い男なのであった。
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