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「ヒヤシンス」「人言を」

第1章 初めての心


数日後、町を歩いていた私は、エリザベスの白い後ろ姿を見つけ、思わず駆け寄った。
「エリザベス…さん!」
『あなたはこの間の』と、札。
「はい、あの」
「あなたはこの間の」
エリザベスの札と同じ言葉に振り向くと、桂様の美しい顔があった。

「本当にありがとうございました」
バトルロイヤルホストで、ステーキランチを食べる桂様とエリザベスに、改めて頭を下げた。
「いや、こちらこそ、食事をご馳走になってしまって、すまない」
いや、だってエリザベスのお腹からとんでもない音したし。というか今、エリザベスがステーキ口に入れた時、何か見えちゃいけないもの見えた気が…。
「ところで、この前殿は連れがいたように見えたが、あれは」
「あぁ…」
桂様に言われ、私はチョコレートパフェのアイスをすくいながら苦笑いを浮かべた。
「お見合い中だったんです。たぶん、結婚する相手です」
『!』と、エリザベス。
「そうなのか?では俺なんかと一緒にメシを食っていてはいけないのでは」
私は首を振る。
「良いんです。絡まれた私を置いて行っちゃうような人だし」
「しかし、断らなかったのだろう?」
「…」
「すまない。立ち入った事を聞いた」
「いえ。断るというか、私に、女に決定権なんて無いというか。どうせ私の意見は聞いてもらえないんです」
「しかし…」
「良いんです」
桂様が何か言おうとされたのを、あわてて止めた。その先を聞くのが怖かった。聞いたら、私は私でいられなくなりそうで怖かった。すがりついてしまいそうで…そんなの、通りすがりに助けただけの女にされても迷惑だろう。
チョコレートパフェのアイスクリームが溶けだして、甘い雫が、ゆっくりグラスの淵を伝い落ちた。
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