【C翼】若林くんと補習で同じ教室になった件 他【短編】
第1章 補習初日のお話し
ドリ子はちらりと若林の方を見た。若林は額やうなじからつたってくる汗を必死にタオルでぬぐっていた。
モブ先生が若林に聞いた。
「朝から暑かったもんねぇ。エアコンの温度下げようか?」
若林は気にするようにドリ子のほうを一瞬だけ見て答えた。
「いえ、大丈夫です」
どうやら若林は薄着をしているドリ子に気を遣ったらしい。若林はジャージのジッパーを下げて、タンクトップのネック部分を引っ張って下敷きでバサバサと扇ぎだした。
扇ぎだされた風がふわっとドリ子の鼻にたどり着く。蒸れた汗のにおいと制汗剤のにおいが混ざったずっと嗅いでいたくなるような爽やかな男のにおいがした。隣りに座っているのが単なる少年ではなく、大人の入り口に立った色気のある男であることにドリ子は心を奪われた。
我に返ったドリ子は、少しでも涼しくなるようにと若林に向かって自分の下敷きで仰ぎだした。すると若林がしまったといわんばかりに言葉を発した。
「あっ、臭かったか?!」
違う、と真顔で否定するドリ子を見て、先生が笑い出した。それにつられるように、ドリ子も若林も笑い出した。