第16章 16Qー初めての味は
「名前っち!なんかついてるッス!」
「え、どこ?」
仮にも黄瀬は男子。
男子の前で食べ物を口の周りに付けている女の子程興醒めなものはないだろう。
急いでそれを取ろうと試みる。
「あーそこじゃないッス!」
私の方に手を伸ばした黄瀬。
しかしその手を止めて何やら考えだした。
何か付けたままだなんて恥ずかしいから早く取ってくれ。
バシッーーー
急かそうとしたとき、お箸を持っていた私の右手首を掴まれた。
ちょっと何これ嫌な予感が…
「じっとしてて。」
ジリジリと近づいて来る真剣な表情の黄瀬の顔。
嘘でしょ…。
こんなシチュエーション本当にあるの。
まあ漫画の世界だからこういう甘い展開もアリなのか。
1人で納得している私の唇のほんの少し下に、黄瀬は自分の唇を寄せた。
「…あ、甘いッス卵焼き!」
そんなに顔赤くするならやらなきゃいいじゃん!
そう反論しようとしたが、黄瀬と同じくらい赤面した顔で喚いても惨めなだけなので辞めておいた。
「うちの卵焼き甘いから…。」
やはり今日は厄日らしい。