第1章 純潔
…今のは聞き違いだろうか。
それにしてもやけにはっきりとした声で。
『どうしてっ』
と彼は言い放った気がする。
いや、気がするんじゃない。
絶対に少年はそう言い放った。
俺が助けてやらなかった事に対しての『どうして』なのだろうか…自分がこんなにも助けを求めているのに、助けてくれないから。
「ああっ、クソが…っ」
俺は少年のあの悲痛な叫びを、思い出してホームから階段へと向かった。
駆け足で上り、再び駅の改札へと戻れば…。
『 …嫌っ、離してっ、お願いだから…っ』
少年は男達に捕まってしまっていた。
それでも抵抗し続ける彼は、よくよく見れば裸足で。
それにおかしく思っていた服装も、ぼろぼろの白いワンピース。男が着るにしてはやはりおかしい。
所々、血の滲んだような色をしている。
少年が何かに巻き込まれているのは、一目瞭然だった。
この少年は家出少年なんかじゃねぇな。
そう思った時には遅くて。
少年はその大きな瞳から涙を零しながら、俺達の国の言語で『やめて』と叫び男達に連れていかれそうになっていた。
『…嫌だっ、もう、戻りたくない…っ』
黙ってそれを見ていたら、自然と少年と目が合ってしまう訳で…。
少年は俺に向かって必死に手を伸ばしてきた。
『Help me…ッッ!』
またあの助けを求める言葉を吐きながら。
「ちっ…」
そんな彼を見ていれば、もう仕事の事なんか頭から抜け落ちていた。
だから…。
「そいつを返して貰おうか…っ」
少年を掴む男達に掴み掛かっていた…。