第1章 純潔
俺がこの状況に戸惑っていると、改札から続く階段の方から複数の足音が聞こえてきた。
それがこの少年にも聞こえたのか、ビクリと肩を揺らすと、より一層俺にしがみついて、『Help me』と発し続けた。
…まさか、この少年。
何かに追われている…?
そう思い、顔を上げた時には…。
黒づくめの男達3人が、この少年を指差して俺と少年に迫ってきた。
やっぱり思った通りだった。
俺の考えていた通り、少年はその男達に追われている。
《Help me…!》
少年は必死でその言葉を言い続けていた。
大きな目に、大粒の涙を溜め込んで、必死で俺に手を伸ばす少年に俺はどうしてやれば良いのか悩んだ。
俺は生憎、ここへは仕事で来ている。
こんなあからさまに事件です、なんて匂いを漂わせたこいつらに付き合ってしまえば、仕事へ影響を来すかもしれない。
そんな時、俺の頭に相棒の言葉が過ぎった。
『いずれ、とんでもないもん拾いますよ?』
ああ、そうか。
これが相棒の言うとんでもないもん、だとしたら俺は。
「Sorry…」
と、ひと言だけ呟いて首を横に振った。
俺はそのとんでもないもんを拾って、相棒にまで迷惑をかける訳にはいかない。
少年には申し訳ないが、自身でどうにかしてもらうしかない。
見たところ少年は綺麗な顔をしているし、育ちも良さそうだ。…まぁ身なりだけは何処と無くおかしい気がするが。
あらかた、家出少年だろう。
そう思った俺は少年の手を振りほどき、ホームの端へと移動した。
『…どうしてっ』
「え…」
俺の元から離れた少年が悲痛に叫んだ言葉は、俺達の国の言語で。
振り返った時には、少年はまた走り出していた…。