【 イケメン戦国 】宵蛍 - yoibotaru -
第8章 橙色 - daidaiiro -
〔 家康目線 〕
「亜子は何処だ。」
「…知りませんよ。しばらく会ってないし。」
「…痴話喧嘩でもしたか?」
「は?」
「ふっ、貴様が怪我したのを聞いて、眠れぬほど心配しておったらしいからな。」
部屋に来るなりドカンと腰をかけた信長様。
亜子が俺のことを眠れないくらい心配していた?
たしかに目覚めたあの日、泣きそうな顔をして側にいたけど、それ以来見かけていない。
「…気のせいじゃないですか。」
病人だからと遠慮してるのか、
意識が戻って安心したのか知らないけど、
顔を見せに来ることすらしないんだ。
「まあ良い。後でここに呼ぶよう言ってある。」
「は?何で…、」
「俺が顔が見たいからだ。」
「………、」
まるで、亜子は自分のものだとでも言いたげなその表情がムカつく。
一体この人はここに何しに来たんだ。
「…もう動けますから心配は不要です。」
「心配などして居らん。」
「明日から復帰します。」
「戯言を。貴様は当分部屋から出るな。」
「ですが、俺はもう…。」
「黙れ。身動きもままならん将などいらん。」
まだ少し痛む身体。
それでもいつまでも寝てるわけにはいかない。そう思って言うも、信長様はひとつも取り合わない。
悔しさに眉を寄せると、
出て行った信長様と入れ違いに亜子が部屋に放り込まれて、ぴしゃりと障子が閉められる。オロオロとしながらその場に正座する彼女を見て、
つい冷たい言葉が出た。
「………、」
「数日間姿を見せなかったのに、いきなりどうしたの。」
「…信長様に、呼ばれて、」
「ふうん。」
信長様に呼ばれたら来るんだ。
なんて心に霧がかかるのを感じて、それを誤魔化すように立ち上がろうとする。一歩踏み出しただけで、身体がふらつき、咄嗟に俺を支えようとした亜子ともつれ合うように布団へ倒れこんだ。
自然と亜子に覆い被さるような形になり、
「…余計なこと、しないでくれる。あんたの手助けなんて、いらない。」
「…ッ、」
苛立ちと一緒にそう吐き出した。
まともに歩く事も出来ない。いいように嬲られて、こんな風になって、まだ弱い自分に苛立つ。