【 イケメン戦国 】宵蛍 - yoibotaru -
第8章 橙色 - daidaiiro -
そう、私はこの時代に来て不安で、心が押しつぶされそうになって、考え無しに城を飛び出した。
現実から逃げることしか考えられなくて。
今は逃げたいとは思わない。
生き抜く術を見つけようと思ってる。
でも結局、この時代では一人では何も出来ない。
「家康さんは一人で戦って、ひどい目にあっても耐えぬいて…こうしてちゃんと、帰ってきてくれました。
…私なら、身一つ守れないまま死んでいたでしょう。
それに、あの夜、私を探して助けてくれた、あの事件がなかったら、家康様がこんな目にあうこともなかったかもしれない。…それなのに家康様は、私のせいじゃないって言って下さる。
私を救ってくれた事、すごく感謝してます。
同時に申し訳なくも思っています。
…お願いですから、家康様のその優しさと強さを否定しないでください。」
うまく言葉にできなかった。
途中から込み上げてくる何かを抑えられなくて、ポロポロと涙がこぼれだす。家康さまは静かに私の言葉を聞いてくれた。
バカ、
と呟かれたと思ったら、傷だらけの手が頬に触れて、私の顔を上へ向かせた。
「…ひどい顔。」
「え、」
涙で濡れる目の淵を、長い指先が優しくなでる。
「…訳のわからないことばかり言って、なんなの、あんた。」
直ぐ目の前で、家康さんの瞳が光っている。
空気が急に濃くなった気がして、息がうまくできない。
「亜子といると、調子狂う。」
久しぶりに名前を呼ばれて、
高鳴る心臓と、ずっと前から気づいていたこの気持ちに、もう言い訳はできない、とそう思った。
…私は、家康様に、惹かれている。