【 イケメン戦国 】宵蛍 - yoibotaru -
第8章 橙色 - daidaiiro -
徳川家康。
彼は江戸幕府を開いた人。
織田信長、豊臣秀吉の元で天下統一を目指すも、二人が死んだ後、関ヶ原の戦いに勝利し、平和な世を作り上げる人。
そればかりが頭に残っていて、人質として幼少期を過ごしたなんて話は覚えていない。教科書に載っていたとしても、何も心に留めなかったんだろう。
表情は淡々としている冷たい声に怒りが滲んで、
苦しげにかすれる。
「…そんな奴らにまた、あっさり捕まって、いいようになぶられて…俺は、俺が許せない。」
「……っ、」
「今川家が滅びて自由になった日、二度と誰にも屈しないって誓った。なのに、まだ、こんなに、弱い。あんたに怒ってるんじゃなくて、あっさり踏みにじられるような自分が、許せないんだ。」
そんなことを、ずっと考えていたの?
この途方も無い怒りが、傷だらけの自分自身に向けられているのだと思うと、胸がきしんだ。
いつも淡々と振る舞って、自分の周りに壁を作り誰も近寄らせようとしない、この人が…心の中に熱の塊を抱いているのだと、初めて気付く。
「…家康様は弱くなんてありません。」
ふと、口から無意識に溢れた言葉に、
家康様はギロッと私に厳しい目線を向ける。その視線を受け止めて、ゆっくりと言葉をつないだ。
「…人質として幼い頃から、心折れずに何年も何年も耐えぬいて、私にはそんなこと出来ません。
そんなに強いのに自分を責めないでください。」
「…俺の話、聞いてた?強くないから今、俺はこうしてまともに動けずにいるんだよ。」
「家康様が敵に捕まったのは、怪我をした従者を守るためだと聞きました。…弱いせいじゃないです。」
「…家臣を守るのは、強さじゃない。ただの義務。家臣を守ったうえで勝つまでが、将の努めだ。」
「それでも、」