【 イケメン戦国 】宵蛍 - yoibotaru -
第8章 橙色 - daidaiiro -
「………っ。違う。そうじゃ、ない。」
謝る私を見つめたまま、
苦しげに吐かれたその言葉に、瞳が揺れる。
「俺は、あんたに怒ってるわけじゃない。」
そういうと、家康様は、
ゆっくりとした動作で身体を離し、傷だらけの手を伸ばして、私の身体をそっと起こしてくれた。布団の上で、二人並んで座ったまま、沈黙に包まれる。
黙って言葉の続きを待つと、彼は治りかけの手を見つめ口を開いた。
「…あんたは自分のせいだと思い込んでるみたいだけど、これは俺が、自分でまいた種だ。」
私が気にしている事を知っていたんだ。
そうだ…、家康様はそういう方。
この御殿に来る時も彼が怪我を負うことになったあの日も、私が気に病むことがないように宥めてくれていたのに…、それなのに私は、
自分のせいだ、
嫌われたんだ、
と自分のことしか考えていなかった。家康様の気持ちを考慮して、と言い訳をしていたけれど、それは、ただの言い訳に過ぎなくて。
本当は自分が、拒絶されるのが怖かったから。
私は自分のことばっかりで、
家康様のことを何にも知らない。
静かに彼の言葉に耳を傾けながら、そう思った。
「あいつらは、…元々俺に、恨みを持っている武士だった。俺は子供ころから、自分の国を守るため他国に人質にだされてた。織田家にいた時期もある。信長様とはその時からの付き合いだ。」
「…え…人質、」
「別に、よくある話だ。
…だけど、織田家をすぐに出ることになって、成人するまでの長い間、今川家の人質として過ごした。
帰るなんて選択肢、俺にも、俺の国にもなかった。
俺が生まれた時の三河は、権力も富もない、弱小な国だったから。」
その時の記憶を紐解くように、
表情を歪めながらもゆっくり家康様は話してくれる。
「何年もずっと、針の筵で暮らしているみたいだった。俺をコケにする奴らに買おまれて、モノ同然に扱われて、ただただ耐えた。
いつか必ず後悔させてやるって思いながら。
今川家は信長様に滅ぼされて、俺は信長様と同盟を結んだ。今川の生き残りからしたら…俺は裏切り者にも見えるかもね。ふざけるな、としか思わないけど。」
彼の口から出てくる過去の話。