【 イケメン戦国 】宵蛍 - yoibotaru -
第8章 橙色 - daidaiiro -
そうやって、勉強をしたり、一人で弓術の稽古をしたり、着物を作って過ごしていた。
家康様が動けるようになったら、
勇気を出して、一言だけでも謝りに行こう、
顔を見るのも嫌で逃げられるかもしれない、
それでも謝りに行こう。
そう決心して、篠さんが道具と一緒にくれた反物に向かい、無心で手を動かしていたら、
「亜子様、信長様がお呼びです。」
「…え?」
雪ちゃんに声をかけられて驚く。
家康様のお部屋でお待ちです、とそう言われて、つまりそれは、二人で一緒にいるということで、
急なことに、心の準備ができないまま、とぼとぼと家康様の部屋に向かう廊下を歩いた。
「ですが、俺はもう…、」
部屋の前まで来ると、障子越しに苛立たしげな家康様の声が聞こえて、顔を上げる。
「黙れ。身動きもままならん将などいらん。」
え…、
続いて聞こえてきた信長様の言葉に固まっていると、すぐさま家康様の部屋の障子が開き、信長様が姿を見せた。
私の姿を捉えた信長様は、
「…立ち聞きか?」
「っ、ちがいます、」
にやりと笑って私をみる。
「まあよい。貴様、眠れぬほど家康を心配しておると聞いていたが、世話を焼いて居らぬようだな。」
「……それは、」
「何だ。」
「…家康様が嫌だと思って、」
「ふっ、彼奴の考えなど知らんが、貴様の仕事は彼奴を褥から出さない事だ。」
「え?」
秀吉さんや篠さんから聞いたのかな。
からかうように言うと、
「怪我の治りが遅まっては困るからな。」
しっかり見張っておけ、そう言って私を家康様の部屋の中に突っ込んだ。
いきなり押し込まれて戸惑っていると、ぴしゃりと障子を閉めて信長様は行ってしまう。