【 イケメン戦国 】宵蛍 - yoibotaru -
第8章 橙色 - daidaiiro -
家康様が怪我をされてから数日。
私はなるべく家康様の部屋に近づかないようにして過ごしていた。
怪我の回復の様子は、
女中さんを通して教えてもらっている。
まだ数日しか経っていないのに、体を動かせるまでには回復しているみたい。ホッとすると同時に、顔を見たくなる。でも、あの日部屋を出てから聞こえた畳を打ち付ける音を思い出して、
ダメだ、
と自分の心に言い聞かせた。
…私がいたら気分を悪くして、
回復が遅れるかもしれない。
自分でそう思って、近づかないと決めたのに、心配で顔が見たくて仕方ないのを誤魔化すように、
部屋の隅で文机に向かった。
「亜子様、お持ちしました。」
「…ありがとう。」
目の前に広げられているのは、薬学書。
怪我をしていても何も出来ない歯がゆさから、薬学の勉強を始めた。現代では、知識なんてなくても、薬局に行って、薬のラベルを見たら大体のことは分かるし、消毒液も絆創膏もある。
それに医療技術も発達しているから、何かあれば病院に行けば良かった。
でもこの時代は違う。
三成くんのおかげで、時間はかかるけど何とかくずし字を読めるようになってきたから、少しでも役に立つ知識を身につけようと思った。
でも結局自分じゃ何も出来なくて、
雪ちゃんに頼んで薬学書を持ってきてもらってるんだけど…。
弓術の稽古は、一人でも細々と続けている。
篠さんに頼んで用意してもらった針子の道具で、着物を作ることも始めた。
何かしてないと、
家康様のことばかり考えてしまうから。