【 イケメン戦国 】宵蛍 - yoibotaru -
第7章 潤色 - urumiiro -
「…亜子様、」
「……初さん、…家康様は、」
急ぎ足で御殿に戻ると、
心配そうに私を待っていて下さった初さんに家康様の眠る部屋へと案内される。
…褥に寝かされた家康様はボロボロだった。
お医者様の話によると、家康様はギリギリ意識がある状態で酷く痛めつけられたらしい。あと少し遅かったら、命を落としていただろう、と。
「…家康様、」
名前を呼んでみても、荒い息を繰り返す彼には届かない。
触れていいか分からない。
でも、遠慮がちに、傷口から菌が入ったのか、それとも傷を塞ごうと身体が熱を発しているのか、家康様の額に浮かぶ玉のような汗をそっと手ぬぐいで拭った。
それから、
家康様の側で黙々と看病を続けた。
一睡もしてなくて軽い目眩がたまに起きる。それでも、苦しそうに吐かれる息を聞いて体を奮い立たせた。
初さんや他の女中さん達が、私の体を心配して少しの間でも眠るように進めるけど、眼を覚ますまでは、とそばを離れない。
…私のせいだという罪悪感と、
何だろう。
私より女中さん達が看病する方が良いと言うのは分かってるのに…、
私は、何も出来ないってわかってるのに…。
何故かそばを離れたく無かった。
…私が城を抜け出して、その上、道を間違えて、私のしたことが家康様の命を危険に晒してしまったと思うと、
胸が苦しくて、
申し訳なくて…。
それでも、
嫌われてても良いから少しでも役に立ちたくて。
いや、少し近づいた気がした距離が嬉しくて、
でもこんなことになってもっと嫌われて当然で、
それなのに、心の何処かで
やっぱり嫌われたく無い、
とそう思ってる。
心の中がぐちゃぐちゃで頭の中も整理がつかなくて、まるで自分のものじゃないみたい。
「…ごめんなさい、」
掠れる声で呟く。
一度溢れ出した涙と言葉は止まらなくて、俯いて布団の隅をギュッと握りしめた。