【 イケメン戦国 】宵蛍 - yoibotaru -
第2章 月白 - geppaku -
織田信長の視線から顔をそらすように俯いて、身体を小さくして座り込んだちょうど、その時だった、
「信長様!よくぞご無事で…、」
現れた武士の一団の中から、1人の男性がそばへと走ってくる。
「…三成?貴様なぜここにいる。秀吉はどうした。」
「秀吉様の命令で参りました。秀吉様ご自身も今こちらへ向かわれています。」
火の手を挙げる本能寺を横目に、三成と呼ばれた男性が眉をひそめる。
「信長様のお命が狙われているとの情報が入ったのですが…本当だったようですね。敵は少数だったらしく、配下の者に寺を探させましたが、すでに逃げたあとでした。…こちらの女性は?ご一緒に本能寺から出ていらっしゃるのが見えましたが…、」
織田信長の前に跪き、丁寧に話す彼の羽織の裾が視界に入る。
「何者かは俺も知らん。」
此奴は刺客に気づき、この俺を救ったのだ。
頭上で私を見やりながら、織田信長と三成と呼ばれる彼が話すのが聞こえる。それでも私は俯いたまま顔を上げることが出来なかった。
いや、したくなかった。
三成…その名を私は聞いたことがある。
目の前にいるのが本当に織田信長なら、三成、彼はきっと、
「そうでしたか…!信長様の御命を救って下さりありがとうございます。…私は石田三成と申します。信長様の右腕である秀吉様の元で、側近を務めているものです」
私の顔を覗き込むようにして、そう名乗る彼に、また軽く目眩を覚える。
織田信長に、石田三成。そして彼の口からは豊臣秀吉の名も出てきた。石田三成と一緒にやってきた兵士達も、みな腰に日本刀を携えていて甲冑を着てる。
受け入れたくはないのに、
今ここは、本当に1582年の日本だ、
という事実を次々に叩きつけられる。
「亜子、三成に挨拶しろ。」
「…。」
「ほう、貴様口もきけなくなったのか?」
「信長様、大丈夫ですよ。」
「…何がだ?」
「信長様の御命を救ったとはいえ、恐ろしい思いをされたのでしょう。先ずはお召し替えを致しましょう。きっと気が動転されていらっしゃるのです。」
身なりを整えれば、きっと落ち着かれるはずですよ。
と優しく微笑む石田三成に背中を押されて、天幕に入るとあれよあれよという間に着物に着替えさせられていた。