【 イケメン戦国 】宵蛍 - yoibotaru -
第2章 月白 - geppaku -
…タイムスリップ?
そんな、夢のような話。あるわけない。
これは私の悪い夢。全部夢。
心臓がドクドク嫌な音を立てて鳴る。全身が心臓になったみたいだ。煙の匂いや、周りの音、目の前のこの人の視線も気にならない。頭の中がだんだんとまた真っ白になっていく。
ふらりと倒れそうになった身体をとっさに抱えてくれた、織田信長と名乗る男の甲冑の硬さを背中に感じる。それなのに回された腕に、体温を感じて、
これが現実なのだと、思い知らされた気がした。
「この俺が名乗ったのだ。次は貴様の番だろう」
「…ッ、」
「名は?」
身体を支えられたまま、指先で顎を持ち上げられ、織田信長の顔が目の前に近づいた。その距離に耐えられなくて、口を開く。
「…亜子です。」
「亜子か。悪くない響きの名だな。」
そう呟いて織田信長が、パッと身体を離した。
頭にガンガンと響くような痛さはあるものの、心拍数はだいぶ落ち着いたみたいだ。それでも、頭のなかはまだぐちゃぐちゃで。
これが現実だとは認めることができない。