【 イケメン戦国 】宵蛍 - yoibotaru -
第7章 潤色 - urumiiro -
稽古以外でこんな風に座って、穏やかに話す機会があまりなかったから緊張して、言葉に詰まる。すぐ横にある彼の肩から感じる熱を嫌に意識してしまって、火照る体が静まらない。
会話が途切れて、気まずい雰囲気が流れる中、
「亜子の好きなモノは…?」
「え、」
重い口を開いたのは家康様の方だった。
「えっと、…服とか、です。」
「服…?その割には小袖しか着てないよね?」
「ぁ、いえ、着るのじゃなくて作る方です。」
「へえ、あんた針子だったの?」
私の好きなものに興味を持ってくれるなんて思わなくて驚くけど、パッと思いついたものを答える。
…デザイナーになれたばかりだった。
タイムスリップなんてしなければ、きっと今頃デザイナーとして仕事をしていたに違いない。ここにきてからは、服を作ろうなんて思わなかったけど…、
そういえば、あの日、
京都の呉服店で着物の仕立てについて話し込んだっけ、見様見真似でやったら、もしかしたら私、着物を縫えるかもしれない。
なんて考え込んでいたら、
「あ、そっか、記憶がないんだっけ。」
何も答えない私を見て、そう自己完結してくれた家康様。針子っていうのは、たぶん服を作る人のことを言うんだろう。何も考えずに、そうです、なんて答えていたら記憶が戻ったのかと大騒ぎになっただろうか。
また嘘を重ねたようで、心が苦しい。
私たち二人の間に流れる、少し肌寒い風を感じながら、庭で遊ぶわさびを眺める。
「あ、こら、」
ぴょこぴょこと駆け回って、庭に咲く黄色い花を食べようとしたわさびのしっぽを、家康様がしかめっ面でで引っ張った。その様子を微笑ましく思いながら、
私もそばへ行き、わさびの頭をそっと撫でる。