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【 イケメン戦国 】宵蛍 - yoibotaru -

第2章 月白 - geppaku -





…何が何だか分からなくて、声が出ない。自分を知らないはずがないというように、自信に満ち溢れた態度に呆気にとられてしまうけれど、掠れた声を絞り出して、



「…知りません。」



とそう告げる。



「知らないはずがないだろう。」
「…知りません。」
「フッ、なら教えてやる。俺は天下統一を成す男だ。名は…、」
「大丈夫です!!」



さっきまで、火の手に囲まれて死に直面していた人とは思えない態度。冷たい瞳はそのままなのに、どこか愉快そうに私に笑いかけるから、また意識を失ってしまいたいとさえ思った。

名前を聞いたらダメな気がして思わず言葉を遮ると、彼の口元が愉快そうに弧を描く。



「妙な女だな、俺の言葉を遮るとは。」



愉しそうな彼の笑い声が、夜の闇に響きだす。



「俺の興を引いたこと、褒めてやる。俺は安土城城主、尾張の大名・・・織田信長だ。」




おだ、のぶなが…?

武士の格好をしているし、もしかしたらコスプレ大会でもあったのかもしれない。その会場で火が上がったのかも。さっきの杖を持った人も何かの演出で…。

と苦しい理由を考えながら、あたりを見回すと、煙の合間からさっきの建物の門が見えた。お寺のような造り。そして、くっきりとした文字で…

「本能寺」と書かれている。



「あの、…お伺い致します。今は何年ですか?」
「……?天正十年だが、それがどうした。」



〔 天正十年(1582年)、明智光秀に裏切られ織田信長は自害し、本能寺は焼け落ちました 〕

さっきまでいたはずの本能寺の跡地で、見たパンフレットに書かれていた言葉を思い出す。天正十年、本能寺の変。





…ありえない。

私は確かに2018年に、本能寺の跡地にいた。
そして今目の前にいるこの人は自分を織田信長だと名乗り、今は天正十年だと言う。

でも2018年の世には、本能寺は石碑しか残っていない。それなのに、私の目の前では、炎が天へと伸びるように広がりながら本能寺という建物を包んでいる。



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