【 イケメン戦国 】宵蛍 - yoibotaru -
第6章 藍白 - aiziro -
翌日、
軍議のために安土城に出向いた。
お昼を過ぎた頃にやっとお開きになったため、真っ直ぐ御殿への道を帰る。すると、後ろから三成がバタバタとかけて来た。
「家康様!」
「………何。」
「御殿までご一緒させて頂いても宜しいですか?」
「…それ聞く意味あるの?俺の御殿に何の用。」
もう既に俺の横を歩いているくせに問いかけてくるから、その胡散臭い笑みを浮かべた顔を睨んでやった。
…出来たら必要最低しか関わりたくないのに、
俺がいくら冷たくあしらおうと全く嫌味の通じないこいつにイライラする。俺の御殿に来てまでする用があるのかと問いかけると、
「亜子様と文字の勉強をする約束をしていまして。」
予想外の答えが返って来て驚く。
「…は?字の勉強?」
「はい。記憶をなくされたのが原因か、文字が読めず不便な思いをされているようなので、お勉強のお手伝いをさせて頂いているのです。」
「…何でお前が、」
「安土城の女中頭が、適任者を探していましたので自ら志願させて頂きました。」
にこにこと嬉しそうに話す三成に、
自然と眉がよる。たしかに文字を読めないのは不便だ。だけど、記憶を無くしたことで文字まで読めなくなるものなの?よほど酷く打ち付けないと、そんなことにならない気がするけど。
怪訝に思うも、記憶を無くしたからって人形にはならず、自ら生きていこうとするあの子に驚いた。
「…意外と強いんだ、」
「へ?何か仰いましたか?」
「いや、何も。」
政宗さんに抱き抱えられて意識を失っていたり、
城を抜け出して浪人に襲われて震えていたり、
俺の御殿に来る時に心細そうな表情をしていたり、
見た限り、弱くて弱くて、
この乱世にのまれてすぐ死んじゃいそうな子だと思っていたのに。
御殿の中、小さい籠に閉じ込められているのに、
あの子は自ら生きていこうと踠いているんだろうか。
関わらないから知らないけど。
俺が思っているより、あの子は、幼い頃の俺よりもっとずっと強いのかもしれない。