【 イケメン戦国 】宵蛍 - yoibotaru -
第5章 若菜色 - wakanairo -
家康様の御殿で与えられたのは、門から一番遠い陽当たりのいい部屋だった。
「…亜子様お待ちしておりました。」
「あ、雪ちゃん、」
逃げさないようにかな、なんて考えながら部屋に入ると、雪ちゃんが待ち構えていた。
初さんから荷物を受け取った雪ちゃんは、テキパキと風呂敷をほどき片付けていく。慌てて私も手伝おうとすると、座っていて下さいと、柔らかく断られる。
「これが私の仕事ですから。」
「…ありがとう。」
「ふふ、お礼なんていいのですよ。困ったことがあれば何でも頼って下さいませ。」
そう言って雪ちゃんが頭を下げるから、
「…あのね、」
「はい、」
「私自分のことは自分でしたいの。本当のお姫様じゃないから、慣れなくて…。だから、雪ちゃんも友達みたいに接してくれたら嬉しい。」
「…亜子様、」
私も正座して畏まってそういうと、慌てて私に駆け寄ってきた雪ちゃんは、困ったような顔をして、それでも亜子様がおっしゃるならと、笑ってくれた。
初めて出会った年の近い女の子。
安土城の女中さんは年配の方が多かったし、城から出ることもないから知り合う機会もない。雪ちゃんが、篠さんには、私の話し相手になるように言われていると言うから、私が落ち込んでいたことに篠さんは気づいていたんだと思う。
「改めてよろしくね、」
「はい。よろしくお願い致します。」
女の子とこんな風にするのは久々で、そんな何気ない事がすごく嬉しかった。