【 イケメン戦国 】宵蛍 - yoibotaru -
第5章 若菜色 - wakanairo -
しばらく歩いていくと、立派な建物にたどり着く。
「おかえりなさいませ、家康様。」
女中さんが出迎えてくれて、やっと、この立派な建物が家康様の御殿だと知る。この時代の武士の家は、どれもこれもお城みたいなんだろうか。
「亜子様もお話は伺っております。」
「…よろしくお願いします。」
「お困りのことがありましたら、何でもお申し付けくださいね。」
女中さんは私を見るとにっこりと微笑んでくれた。
「言っとくけど甘やかす必要はないよ。くれぐれも外には出さないで。
あんたの世話は御殿の女中たちに任せてある。この御殿でさえ出なければ、後は好きにしてていい。………それじゃ。」
「あの、…お世話になります。」
「…静かに、カゴの中の鳥になってなよ。」
私の荷物を女中さんに預けると、家康様は背を向けてスタスタと歩いて行ってしまった。
その様子をポカンと見る私に、女中さんは、
「家康様は少々人見知りなのです。」
慣れたらお優しい方なのですよ、と笑って私を部屋に案内してくれた。その方は、家康様の御殿の女中頭で、初さんという方しい。
篠さんと同じくらいの年齢かな…。
初さんにも、篠さんと同じ母のような暖かさを感じる。
「安土城の女中の雪がお世話をさせて頂きますが、私どもにも是非頼って下さいね。」
家康様には奥方様もおりませんし、姫様のお世話をさせて頂けるのが嬉しいのです、とまるで、初めて会った時の篠さんと同じことを言うから、つい、笑ってしまう。
それを見て嬉しそうに、初さんも笑うから、この御殿でも何とかやっていけるかもしれないと思った。
一歩外に出たら、刀が交ざりあう時代だけど、人はやっぱり暖かい。