【 イケメン戦国 】宵蛍 - yoibotaru -
第5章 若菜色 - wakanairo -
会話が途切れ、家康様の半歩ほど後ろを黙ってついて歩いていると、
「これはこれは、徳川殿では御座いませんか。」
「…ああ。」
「女子を連れているとは珍しいですな。」
前からやってきた武士が家康様に話しかける。
にこにこと楽しそうに笑うその男とは対照的に、家康様の顔はどんどんと不機嫌になっていく。私も立ち止まって家康様を見上げると、彼は背中に私を隠すようにして、男と向き合った。
「おや、…もしや恋人ですか?」
その様子を見ていた男は、揶揄うよう言う。
「…違う。」
「ならば、何故隠すのですか?」
「…この女は織田家ゆかりの姫だ。お前のような奴に顔を見せるわけにはいかない。」
「ほう、姫様でしたか。これは失礼。御披露目されていないと姫がいたとは、存じ上げませんでした。」
人のいい笑みを浮かべて笑い続けると男を家康様は一瞥すると、私を隠すようにしたまま、
「…失礼する。」
そう言い残して早足にその場を立ち去った。
振り返ろうとする私を強引に促して、その男が見えなくなるまで足を進めると、ほっと一息吐く。
「あの、…家康様、あの方は、」
「…最近、織田軍の傘下に入った国の大名だ。」
嫌そうに眉を寄せると、家康様はそれっきり黙ってしまった。何故、私を隠したのか、分からないことだらけで質問したいけど、これ以上聞いてはいけない雰囲気がひしひしと伝わってくる。
私も黙って彼の後をついて行った。