【 イケメン戦国 】宵蛍 - yoibotaru -
第5章 若菜色 - wakanairo -
「…荷物、たったそれだけ?」
「はい。」
鞄と風呂敷を抱え、城門で待つ家康様に近寄る。荷物を抱え直した時、不意に彼の腕が伸びてきて、
「………貸して、」
家康様が私の手から荷物をすっと取り上げた。
「…あの、自分で持ちますから、」
「別に気遣ってるわけじゃない。城下町で人混みに紛れて逃げ出されたら、俺が困るから。」
「もう勝手に外に出たりはしません…、」
「ふうん。」
興味なさそうに返事をする家康様。
それでも、私の荷物を持っていてくれるから、冷たいけれど本当はいい人なんだと思った。
当たり前か。私が怪しいから拒んでいるだけで、他の人にはこんなに冷たくするわけないか…。自分で思って、少し惨めな気持ちになるけれど、仕方ない。
いたたまれなくて着物の袖をぎゅっと握る。
「…城下に何しに行きたかったの。」
「え?」
「逃げ出した夜だよ。あんな時間に抜け出すほどしたいことがあったんでしょ。」
「いえ…、あのただ、気分転換したくて、」
「は?」
本当は佐助くんに会いに行きたかったんだけど…。
また一つ重ねた嘘に胸が軋む。
でも仕方ない。私がこの時代の人じゃないってこと、そんなの説明できないもの。
「呆れた。底なしのバカなんだね。」
「…たしかに考えなしでした。ご迷惑をおかけして申し訳ありません。」
「謝らなくていい。丁度いいから城下町の様子くらい見ておけば。」
「…え?」
そう言って前を向いた彼に習って顔を上げると、目の前に人の行き交う様子が広がっていた。
これが城下町…。
そういえば、織田信長は“楽市楽座”を行った人だっけ。関門をなくして、自由に商人たちが商売をできるようにした人。もう日が落ち始める頃なのに。思った以上に活気のある街に圧倒される。
「…本当に逃げ出さないでよ。」
「そんなことしません…。」
きょろきょろとする私を一瞥して、足を進める家康様。確かにこの流れに流されたら、彼を見失ってしまうかもしれないと思い、必死に後をついていく。
「あの、ひとつ、質問しても良いですか…?」
「何。」
「何故私の見張りに家康様が適任なんでしょうか?」
「…………は?」
「逃げ出さないように見張るなら、他にたくさん方法がある気がして…、すみません。」