【 イケメン戦国 】宵蛍 - yoibotaru -
第4章 青褐 - aokachi -
落ち着き払った声で告げ、家康様は軽蔑しきった目で男を見下ろす。
「おのれ…、覚えていろ!」
屈辱に目元を歪ませ、男は泥だらけで立ち上がり、雨の中を走り去った。私は男が見えなくなるまで、その場にへたり込んだまま息を殺していた。
「いつまでそうしているつもり?さっさと立てば。」
家康様の冷めた声が聞こえて、ハッとする。
ふらつきながら立ち上がると、着物は雨と泥を吸って重たくなっていた。
「助けださってありがとうございます…。」
「礼なら、脱走したあんたの捜索を俺に命じた信長様に言いなよ。」
「え、」
「城に戻る。」
信長様が?
と疑問を口に出そうとしたけれど、彼は私の言葉を遮るようにして、城への道を戻り始めた。私は彼の背を見失わないように必死に着いていく。
篠さんたちが私がいないことに気づいて、信長様に言ってくれたんだろうか。それで、雨の降る中私のことをわざわざ探して下さったの?
沈黙の中、少し前をいく彼の背を眺めて、こんな雨の中捜索させることになったことを申し訳なく思う。
「…ごめんなさい。」
聞こえないくらいの声でポツリと呟いた言葉。
それなのに彼はそれを拾って、呆れたように話しかけてくる。
「脱走したくせに大人しくついてくるんだね。」
「…逃げたわけじゃ、」
「どっちでもいい。俺には関係ないし。」
「…、」
「あんたを連れ戻そうと考えてるのは俺じゃなくて信長様だ。もし、逃げたいならどこへでも行けばいい。身一つで生き延びるだけの力があんたにあるなら、だけど。」
初めてまともに交わした言葉だった。
…逃げ出した、のだろうか。
この時代に来て、戦さの怖さを目の当たりにした気がして、怖くて、誰かに慰めて欲しくて。でも、記憶を無くしてることにした手前、誰にも言えずに、こっそりと城を抜け出した。佐助くんに会えたら、城に戻るつもりだった。いや、もし、一緒に行こうと言われたら付いて行ったかもしれない。
確かに私は考えが甘かった。だから、家康様の言葉が胸に突き刺さる。
「……、」
「…………。」
それ以降会話はなかった。
彼の背を眺めて、すぐそばに居るのにすごく遠く感じるこの居たたまれなさにどうしようもなくなった。