【 イケメン戦国 】宵蛍 - yoibotaru -
第4章 青褐 - aokachi -
「………!あの男は…、」
林からこちらに向かってくる徳川家康の姿を見た途端男は身をこわばらせ、何故か素早く頭巾を被って顔をかくした。
腕を引っ張られて、その腕をがむしゃらに振りほどいたらその反動で、ぬかるんだ地面に倒れこむ。
「暴れるな!」
「いや…っ、」
「腹立たしい…。信長の側女ごときが俺に歯向かうな。」
「…ッ、なんの話ですか、」
「とぼけるとは、愚弄するのもいい加減にしろ!」
怒りに駆られたように私を睨み据え、男が刀を振り上げる。斬られる、そう全身の血が凍り、反射的に目をつむった次の瞬間…
カキンッ
と耳に痛い金属音が聞こえ、まぶたを開く。
「この女に触れるなって言ったはずだ。」
「…あ、」
家康さんが私を背にかばい、男の前に立ちはだかっていた。手にした小太刀で凶刃から守ってくれたのだと、理解するまで数秒かかった。
男は頭巾から覗く瞳をギラつかせ、間合いをとって数歩引く。
「…家康様、どうしてここに、?」
名前を呼んだのは初めてだった。
避けられて、嫌、まるで私を存在しないもののように拒んでいたのに、今は私を庇ってくれている。
「雨が降って良かったね、足跡が残ってた。…あんたを連れ帰るのが、今夜の俺の仕事。不本意だけど、あんたの命は俺が預かる。死にたくなかったらじっとしてなよ。」
「……は、い、」
しとしとと降り続ける雨粒に打たれる家康様の横顔を見上げながら、私はこくこくとうなずいた。
さえ切った彼の瞳が、謎の男をひたと捕らえ、鋭く細められる。
「なにが目的かしらないけど、この女は諦めろ。今すぐ消えるなら見逃してやる。」
「偉そうな口を…っ」
男は肩をわななかせると、刀を振り上げ突っ込んできた。危ないと思う暇もなく、振り下ろされた男の刃を、家康さんは涼しい顔で弾き飛ばした。
その衝撃でバランスを崩し、男が地面に倒れ込み、同時に、男の刀が真っ二つに折れ、地面に突き刺さった。周りの武将に比べて線は細いのに、力強く無駄のない動きをする彼を見て、強さを感じる。
「お前じゃ俺の相手にはならない。わかったら、消えろ。」