【 イケメン戦国 】宵蛍 - yoibotaru -
第4章 青褐 - aokachi -
安土城に帰ってから丸二日。
私はずっと部屋に閉じこもっていた。
目の前でキラリと光った刀のぶつかり合う音が耳にこびりついて離れない。
タイムスリップをしたこと、
燃え盛る炎の中で信長様を助けたこと、
真っ暗な森の中を走ったこと、
走り抜ける馬の背に揺られたこと、
どれも信じ難くて、私の時代へ帰りたくて仕方なかった。それでもこの時代で生きていく努力はしてみようと思ったところだったのに…。
「…むりだ、」
丸二日引きこもり生活をしている間に、代わる代わる何故か私を訪ねてきた武将たち。一番はじめに訪ねてきた明智光秀は、
『あの程度で腰を抜かすとは、よほど平和な世で生きてきたらしいな。』
『…っ、』
『本能寺の夜は本当に狐にでも化かされていたのか?』
と私をからかうばかり。豊臣秀吉は、
『疑って悪かった。』
『え?』
『お前が間者ならあの機を逃すはずがない。…記憶が早く戻るといいな。』
と優しい笑みを残していった。伊達政宗は、私に呼び捨てと畏ることをやめることを強要すると、手に口づけを残して去っていくし、三成くんは、私に字を教える役をかって出てくれたらしく、御伽噺のような本をたくさん持ってきてくれた。
全員クセは強いけど悪い人たちじゃないのは分かる。
信長様だって根から悪い人だとは思ってない。
徳川家康は、関わる事がなくてどんな人かは分からないけど…。
ただ、誰も私の気持ちを理解はしてくれないだろう。
当たり前か。彼らにとって死と隣り合わせの戦は日常茶飯事のはずだもの。