【 イケメン戦国 】宵蛍 - yoibotaru -
第4章 青褐 - aokachi -
「戦うなんて無茶です…、逃げてください!」
「無茶かどうかは、この俺が決めることだ。」
「戯れ言を。覚悟、信長!」
斬りかかった敵の刃を、信長様が受け止めた。火花が散るのが見えて、足が一歩も動かなくなる。間近で見る本物の斬り合いに、初めて本気で命の危機を感じた。斬りかかった武士はすぐさま、信長様の次の一打で跳ね飛ばされ地面に倒れ込む。
恐怖が足元から這い上がってきて、震えが止まらない。
「亜子、貴様はそこから動くな。」
信長様のその言葉に返事をする余裕もなくて、ギュッと目をつぶって震えを耐えるしかない。
やがて、
「目を開けろ、亜子。」
何十分、いや数分しか経っていないかもしれない。
刀のぶつかり合う音が止み、それでも目を開けれないでいると、信長様の声が頭上から聴こえて、恐る恐る目を開ける。目の前の信長様は、汗ひとつ、傷ひとつ付いていなくて、さっきまでの斬り合いは夢だったんじゃないかと思うくらい悠然としていた。
でもその奥に伸びた男の足が見えて、腰を抜かして倒れこむ。
「本能寺で俺を助けた女だとは思い難いくらいの怯えようだな。」
「…っ、この人たちは、」
…死んでしまっているのだろうか?
「殺しはしてない。帰るぞ。此奴らに話を聞かねばならぬからな。」
そんな私の気持ちを察したのか、サッと私を担ぎ馬に乗せる信長様。私たちが去ると同時に、どこからともなく人が現れ、伸びた男たちを捉えるのが見えた。
…織田信長。
そういえば、
鳴かぬなら 殺してしまえ ホトトギス
後世の人が織田信長を例えてこんな歌を詠んでしまうような人だった、と改めて思う。さっきは、村人たちに囲まれて暖かい信長様の一面を見た気がしたけれど、この人は逆らう者には容赦がないんだ。
そして、命を奪うこと、奪われることが
この時代はいつも身近にある。
やっぱり私は、この時代には馴染めないかもしれない。
安土城に戻る帰路の中、
私の体の震えはひとつも収まらなかった。