【 イケメン戦国 】宵蛍 - yoibotaru -
第4章 青褐 - aokachi -
「今年は豊作が見込めそうだな。」
「そうですね…」
翌日、私は、視察という名目の囮捜査に連れだされたものの、のどかな空気に包まれて拍子抜けしていた。
青々と広がる田畑を眺めながら、信長様とあぜ道をのんびり歩む。
「信長様、俺のとこの畑も見に来てください。信長様が命じて水を引いてくださったおかげで豊作です。」
「良いだろう。後で立ち寄る」
「この瓜、もらってくだされ。今年はできが良いんです。」
「貰おう。ほう、なかなかうまいな。貴様も食え。」
「ありがとうございます…」
信長様って領民の人たちに慕われてるんだ…。
威圧的な感じは拭えないけれど、信長様を取り囲むように話しかけてくる村人達の様子を見て、信長様に対する見方が少し変わる。この広大な畑も、水々しい作物が出来たのも、全て信長様のおかげです、とにこにこ話す村人たち。何を考えているかは分からないけれど、この人はやっぱり歴史に名を残す偉人なんだと感じる。
歓迎ムードの村人たちにあちこちを案内された。
やがて彼らと別れ、信長様と私は人気のない河原へ出る。
「ここで涼むぞ、亜子。」
「はい。…いい村ですね。和で自然も豊かです。」
「ああ。その上、刺客が潜むのに最適な林もある。」
しかく…?
頭のなかでとっさに漢字変換できないでいると…、
「きおったな。」
「え…、来たって…!」
ザザザっと木立が揺れ、刀を携えた武士たちが林から飛び出した。
和な村の雰囲気に拍子を突かれて、すっかり忘れていた。いや、安心しきっていた。今回の目的は信長様を狙う者を誘き出すこと…。
今更思い出してももう遅い。
「隙あり、信長…!」
「女連れでのうのうと行楽とはな…、切られても文句はいえまい。」
武士たちが一斉に腰の刀を抜き放つ。
切っ先が陽光をギラリと跳ね返し、目がくらんだ。
真っ白になった頭と震える足を何とか動かして、信長様の羽織の裾を掴む。
「信長様、早く…っ、」
「わかっている。早々に片付ける。」
え?と思った時には、
裾をつかんでいた手を離されて、信長様はすらりと太刀を抜き、悠然と片手で構えた。全身をこわばらせる私の横で、信長様の口元には笑みさえ浮かんでいる。