【 イケメン戦国 】宵蛍 - yoibotaru -
第3章 刈安色 - kariyasuiro -
「相手は痕跡を残してない。本能寺から後たどるのは難しいですが…追いますか?」
「…いや、エサをまく。」
口元を釣り上げる信長様の視線が、不意に私へと向けられた。
「…え?」
「貴様にも付き合ってもらうぞ、亜子。」
その言葉にぽかんとする私より早く、豊臣秀吉が信長様に問いかけた。
「どういうことですか、信長様。」
「敵は、俺の守りが手薄なところを狙ってきた。こちらの動向を把握していると考えて良いだろう。であれば、同じ状況をもう一度提供してやり、誘い出す。」
「信長様、それはあまりに…っ」
「危険だ、などという理由なら聞かん。敵はなかなかに巧妙だ。であれば、俺をエサに相手をおびき出すのが、一番効率がいいだろう。」
「確かに合理的な策です。では、國の外れへ視察に向かっていただく用意をいたしましょう。」
「従者は不要だ。俺の気まぐれだということにしろ。“信長は、狙われた直後なので危険だという家臣の進言を無視し、己の力を慢心してでかけた”…と、そのような噂を流しておけ。」
自らを囮にするなんて、
すごい事を考えるな、とその様子をぽかんと見ていた。そんな私を見て、状況を理解できていない事を察知したんだろう、信長様が呆れた様にため息をつく。
「何を呆けておる。」
「…いえ、あの、私と関係あるのかなって、」
「言わずともわかるだろう。貴様もともに連れて行くということだ。」
「え?」
「女連れであれば敵の油断を誘え、相手を捕らえやすくなるからな。」
目を見開いて固まる私を見て、向かい側から三成くんが心配そうに声をかけてくれる。
その声で我に返った私は慌てて首を横に振った。