【 イケメン戦国 】宵蛍 - yoibotaru -
第3章 刈安色 - kariyasuiro -
「…嫌です。」
「本能寺で火の中に突っ込んでいった割に、引っ込み思案だな、お前。」
「案ずるな。信長様のそばであれば襲われようが怪我をする可能性はないだろう。」
「そういう問題じゃ…、」
私の話を聞かない伊達政宗、明智光秀、その様子を興味深そうに見ている信長様。そして険しい顔をしている豊臣秀吉。ここにいる人たちは全員戦国武将だから、納得できる話かもしれないけど。
私は武将じゃない。
そんな囮作戦に無理やり同行させると言われても、直ぐに頷けるはずがない。
「…その女の意見を聞いてる暇なんてあるんですか。」
そう思っていたら、
「信長様は反論を聞き入れる気なんてないんでしょう。時間の無駄です。」
あの、名前の分からない彼がひどく冷たく言い放つ。
拒絶する姿勢を崩さないその様子に、思わず目頭が熱くなった。右も左も分からない戦国時代で、受け入れてくれる人ばかりじゃないのは分かってる。でも、今の私には、まるで私をいないものの様に振る舞うその姿勢は、間者と疑われるよりもすごく痛いものだった。こんなところで涙を流すわけにはいかない。そう思ってグッと堪える。
その時だった。
「…家康の言う通りだな。」
信長様から発せられた家康という名に、
「え?」
私と彼がピクリと反応する。
…家康。
家康なんて、ただ一人しか思い浮かばない。
なんで気づかなかったんだろう。織田信長、豊臣秀吉、明智光秀、伊達政宗、石田三成と揃う中、このならびに居ても不思議じゃないのに。
徳川家康。
何年も続く江戸時代を築いた人。
信長様が、囮作戦を決行するための話をする間。私はぼーっと徳川家康を眺め続けて居た。その間、決して目が合う事はなかった。
そして、何故彼の名を知っただけで、
こんなにも言い表せない様な気持ちになったのか、私にはよく分からなかった。