【 イケメン戦国 】宵蛍 - yoibotaru -
第17章 浅蘇芳 - asasuou -
抱きしめていた身体を離して顔を覗き込むと、
雪ちゃんは眉を寄せて涙ぐんでいた。
謙信様に捕らわれて牢に入っている間。
確かにここに戻れるか不安だったけど、本当に特別酷い扱いは受けていない。それに、私がここに戻ってこれたのは、確かに雪ちゃんのおかげでもある。
雪ちゃんが、信長様に私が春日山城へ連れ去られたことを伝えてくれていなかったら、家康さんが私を助けに来てくれることもなかったかもしれないから。
それなのに、
納得いかないというように唇を噛む雪ちゃんは、
私の足元に跪くと頭を下げた。
「ちょっ、雪ちゃん…、どうしたの?」
「亜子様…、私は亜子様に謝らなければならないことが二つあります。」
「…謝ることなんて、」
「いえ、謝らなければならないのです。一つ目は、上杉の手からお守り出来なかったこと。二つ目は、私が光秀様の忍びだということです。」
「………。」
「家康様の御殿へと移られる事が決まった日。私は光秀様に、素性が分からない亜子様の監視役を命じられ女中としてご一緒させて頂きました。私はずっと、亜子様を騙したまま、」
申し訳ございません。
そう言って深く頭を下げる雪ちゃんに何も言えなくなる。
あの日、何となく女中さんにしては、林の中の道に詳しいし体力もあるな、とは思ったけれど、雪ちゃんが忍びだったなんて全然気づいていなかったから。
騙されたなんて思わない。
ただ驚いているだけ。
だって、私が疑われるのは仕方のないことだった。
「謝らないで…、」
「…城に戻られてからも、亜子様が城下町に出られる時に、こっそり後をつけていたりしました。萩姫様や喜作殿との接触がないか調べるためです。…なのに、私は自分の役目もこなせず、亜子様を危険な目に合わせてしまいました。」
「雪ちゃん…、それは私の警戒心が薄かったからだよ。」
そう、たぶん私は、
馴染んだつもりでこの時代ことをやっぱり理解できていない。戦についても。いつ、どこで、命を失ってもおかしくないってことも。
この時代の人からしたら、
私の警戒心なんて無いに等しいものだろう。
もっと、
もっと、
自分で気をつけなきゃいけなかったんだ。