【 イケメン戦国 】宵蛍 - yoibotaru -
第17章 浅蘇芳 - asasuou -
〔 亜子目線 〕
家康さんが部屋を出るのを見送って、
ほっと息をつく。
戦から帰ってきたばかりのに、わざわざ会いに来てくれたこと、すごく嬉しいと思う。今日は忙しいだろうから会えないと思っていたから。
「…はあ、」
火照った顔を手で仰いで、
そのまま座ってぼーっとしていた。
さっきまでの時間は嘘みたいに心地よくて、でも緊張して、心臓が高鳴った。
でも、良いのだろうか。
家康さんは、帰ってきたばかりだから、萩姫様の噂を知らないのかもしれない。
この幸せを手放したくないと思っているけど、
萩姫様の噂はどうしても無視は出来ない。
私が城下に行かないように秀吉さんに言われたのは、きっと彼が私がこの噂を耳にしないようにと取った判断だろう。私の気持ちが秀吉さんにバレていることくらい気づいてる。
だから、この噂についても知らないふりをするべき。
「………。」
今、私だけ、こんなに幸せで良いんだろうか。
彼女のお腹にいる子供には、何も非はない。
私に対する家康さんの気持ちや、
家康さんが萩姫様を嫌いだと言っていたこと。
それが嘘偽りには思えないけど、
家康さんと萩姫様との間に何があって、彼が彼女を嫌っていたのか、二人の間にあることを私は何も知らない。
だから、この身に余るくらいの幸せを
私がもらっていいのか戸惑ってしまう。
もう一つ大きなため息をついて、立ち上がって開けっ放しだった障子を引こうとした時だった。
廊下から覗いた顔にハッと息を飲む。
「…ッ雪ちゃん!」
春日山城に行ってから、
早く顔を見たくて仕方なかった雪ちゃんの姿に、思わず駆け寄って抱きつくと、ふわりと抱きしめ返してくれた。
「亜子様!…ご無事でなによりです。」
「…雪ちゃんこそ。大丈夫?どこも怪我はない?」
「はい、私はどこも。…それより、お守りすることが出来ず申し訳ありません。」
「ううん。いいの。雪ちゃんが私が連れ去られたこと信長様たちに伝えてくれなかったら、ここには居ないかもしれない。…ありがとう。」
「いえ!…亜子様がご無事だったのは家康様や信長様のお陰です。私は…お守りすることができませんでした。」
「…雪ちゃん、」