【 イケメン戦国 】宵蛍 - yoibotaru -
第17章 浅蘇芳 - asasuou -
「…家康さんが、ですか?」
「ああ。薬学は得意分野だし…、それに、弓術を教えるよりいいでしょ?あれは名前にはいらない知識だから。」
「でも、私、大分矢が飛ぶようになったんですよ。まだまだ全然的には当たらないけど…、」
この状況が恥ずかしくてたまらないんだろう。
腕の中で心臓を早く鳴らせながら、カチコチに固まって、話す名前。
本当に感情が溢れ出していて、顔を見なくても、どんな顔をしてるか想像ができる。緊張して固まってる亜子には悪いけど、こんな風に他愛のない会話を出来るのが嬉しくてまだ離してあげられそうにはない。
でもこんな風に緊張されたままじゃ、
手を出すなんて当分無理だろうと心の中で苦笑する。
「じゃあ、あんたがどれだけ上達したか、また見てあげる。」
「…はい。」
「あ、…亜子が城に戻ってから、あまり時間が無かったから言えなかったけど、わさびがあんたを恋しがってる。」
「わさびが?」
「ああ。また、わさびにも会いに来なよ。」
その時は、覚悟しておいて。
そう思ったけれど、口には出さなかった。意識されてこれ以上カチコチになられたら困るから。
「初も、あんたを恋しがってるしね。」
「初さんもですか?」
「うん。御殿に花が無くなったって嘆いてた。」
「ふふ、」
御殿の中をパタパタと亜子がかける音。たまに聞こえてくる女中たちとの話し声。いつの間にか生活の中にかかせないものになっていた。
あの日、萩姫のせいで、
ほとんど話もできずに亜子を城に返して、それからすぐに戦に出た。その前までは、俺が見動きも取れない状態だったし。ゆっくりこんな風に他愛のない話ができるのは浪人を捕らえに向かったあの日の前日以来かもしれない。
「…私もわさびと初さんに会いたいです。」
「いつでも来ればいいんじゃない。あんたと俺は恋仲なんだし、遠慮することもない。」
「…っ、」
「何照れてんの。事実でしょ。」
恋仲、その言葉に反応を示す亜子。
あまりにも分かりやすく息を詰めるから、思わず吹き出しそうになった。