【 イケメン戦国 】宵蛍 - yoibotaru -
第15章 濃紅 - koikurenai -
「…家康さんに頂いた反物で作ったんです。」
「それは、見たら分かるけど…、」
「これを脱いで、用意して頂いた着物を来たら、なんだか、もう安土には帰れない気がして…。」
「……、」
「へへっ、私の勝手な思い込みです。…でも、大切にしてたはずなのに、汚してしまいました。」
片方しか無い耳飾り、
少し汚れてしまった着物、
この二つだけが牢にいる私にとって、安土と…家康さんと繋がっている唯一のものだった。敵に心を許さないためにも、着物だけは脱がないのが、私の些細な抵抗だったんだ。
ずっと着ていたから、
着物はさらに汚してしまったけど…。
「…せっかく下さったのに、ごめんなさい。」
大事に着たかったのに。
ごめんなさい。
そういうと家康さんは少し眉を寄せて、でも優しく、
「…そんなの、また幾らでも買ってあげる。」
「………え、」
「幾らでも買ってあげるから気にしなくていい。…ごめん、すぐに助けに行けなくて。」
「…家康さんのせいじゃ、」
「…うん、やめよう。この話は埒があかない。」
昨日も散々お互い謝ったしね。
そう言った家康さんは、少し苦い顔をして、謙信様が下さった着物を一枚手に取ると、着替えておいで、そういって天幕を出た。
この陣営に女物の着物は無かったから、
ここに帰って着てから男物の着物を借りて着ていた。少し大きくて崩れやすかったから、素直にその着物を受け取って着替える。ちょうど着替え終わったタイミングで、また家康さんから声をかけられて、着替え終わったことを伝えると、入ってきた家康さんは、やっぱり少し不機嫌だった。
「…えっと、」
「………。」
「…いえや、すさん?似合いませんか?」
「…違う。」
眉間に寄せられたシワに、
そんなになるほど似合わないかななんて思いながら声をかけるけれど、違うとそれだけ返されて、気まずいこの空気にどうしたらいいか分からなくなる。
戸惑って下を向いていると、
はあっと大きくため息をついた家康さんが、
「…似合う、けど、」
上杉が送った着物ってところが気に入らない。
そう言われて、ハッとした。
たしかに、家康さんにとって謙信様は敵だ。私が牢の中で頑なに着なかったのと一緒で、敵からの贈り物を着ていて気分が良いわけがない。